2013年12月27日金曜日

2013年冷卸の総括

新酒シーズン真っ只中ではありますが、ようやく冷卸の最後の一本を飲み終えました。年を越さない内に、2013年の冷卸を総括してみたいと思います。

今年飲んだ冷卸枠の商品は以下の13銘柄。多分ここ数年で一番少なかったと思います。
あたごのまつに始まり、あたごのまつで終わったんですね。まぁ特に意図したわけじゃないですけど。


この他にも、試飲させてもらった銘柄なら30とか40銘柄くらいは味見しています。
そうなんです、結構味見してて、その結果あんまり買わなかったというか飲まなかったんです、今年。

実は、9月半ばに開催された、そして僕は行かなかったとある冷卸の会の後に、出品酒10本のほぼすべてを利かせて貰ったんです。その時の全体を通しての印象が、薄い、弱い、だったんですね。そのために食指が動きづらかったのです。

購入して飲んでるお酒はかなりしっかり旨みが出ているモノたちなんですが、それは試飲と過去の実績から選んだ結果なのです。

これまで、冷卸と言えばコッテリ味が乗って、待った甲斐がありましたって感じる腰の座った味という印象だったのですが、年々軽くなってきてる気がします。
何でかなぁと、勝手な想像、邪推ではありますが、ちょっと考察してみたいと思います。


第一に、出荷が早くなってきたということ。

これは今年が特別ということじゃなくて、年々早くなってる気がします。8月中にはもう出始めて、9月も序盤から揃い踏み、そりゃ単純に寝かせる時間が短いんじゃないかと。

じゃあ何で早く出したいのか、やっぱり日本酒ブームのおかげもあって、需要があるんじゃないかと。もっと言えば、日本酒を受け入れてもらえる環境がある今は、季節商品を需要創出のアイテムとして使ってるんじゃないかと。夏酒も色々な蔵が出すようになり、時期も早くから出るようになりましたし。

こういう戦略自体は何も悪いことではないと思いますが、その思惑が透けて見えるというのがひとつポイントなんじゃないかと思うんですね。

そもそも昔ながらの造りの場合だと、お酒造りの飲むタイミングのイベントは、新酒、初呑み切り、冷卸の大きな3つの波があったわけです。

新酒の時期、つまりお酒を造ってる冬から春にかけては、商品として出そうと思えば色々手を打てる時期でもあります。だって造ってる最中ですもん。それに初しぼりとか新酒とか、わかりやすく手が伸びる肩書が付けられますから。

そして初呑み切り。夏酒って売り方が何時頃からあるのか知りませんけど、初呑み切りの味が夏酒のルーツのひとつじゃないかと想像しています。どうなんでしょうか。
この時期のお酒を後押ししたのは、冷酒という飲み方が広まったという背景もあると思いますが、暑くなり始める時期に爽やかに冷たく飲むという提案は、なるほど理にかなった商品展開だと思うのです。

そして冷卸。秋上がりとか夏越しとか、冷卸を含む一夏の熟成が済んだお酒なわけです。元々冷卸は外気温が下がってきた頃に出してたお酒とのことです。まぁ昨今の異常気象を考えるとそんなことも言ってられませんし、そもそも管理の仕方もサーマルタンクが一般的になったわけですし、時期は時代と共に変化するものでしょう。まぁとにかく、本来はもう少し涼しくなってからのお酒だったわけです。

そう考えると、新酒シーズンを後ろまでひっぱり、夏酒シーズンを前後に伸ばし、冷卸を前倒しにすることによって、本来の日本酒のイベントの隙間を埋めていってるんじゃないかと思うんですよね。

夏酒はまだいいですよ。せいぜい夏という文字を5月から目にするのがどうなんだってくらいのことで、味わいは固くてもフレッシュでも、ある意味夏酒としては方向性が変わらないわけです。なんせ売りは暑い時期に爽やかに飲むための商品ですから。

でも冷卸はやっぱり無理がキテると思うんですよね。残暑が始まる前からコッテリした味を飲みたいかと言われると、それはちょっとって言うかむしろ夏酒プリーズですから。じゃあコッテリさせなくてもいいんじゃね?どうせ熟成期間も短いしって感じになるんでしょうかどうなんでしょうか。それじゃあ冷卸じゃないだろと。考え過ぎかなぁ。


第二に、日本酒を飲む人たち、母集団が変化してきたということ。

僕が日本酒にハマって飲むようになってから15,6年経ちます。日本酒文化を支えてきた諸先輩方に比べればまだまだ若造ですが、それでも震災以降の日本酒ブームというのは、僕が飲み始めた頃の日本酒ブームよりも、もっと象徴的な意味を持ち、食文化の中には収まらないものである気がします。

震災で大きな被害を受けた場所には銘醸蔵が多くあったこともあり、支援の一環から始まった日本酒ブームは、今年の和食の世界遺産登録なんかも後押しして、より戦略的なものになっているのでは、と思うのです。

なにが戦略的か、売り方、見せ方、広め方ってところでしょうか。要するに、これまで日本酒に縁が無かった人達にもリーチしていくだけのネタが今は十分あるのだと、例えば雑誌類の日本酒特集なんかをみても思うわけです。
(同時に、よりマニアックな考察も並列に増えてきているとも思いますが)

そういう面から日本酒を知った人達に薦める日本酒は、必然的に飲みにくくないものが求められます。日本酒に限らず、何かに慣れてない人、始めたばかりの人には、あまり癖がなく、尖ってなく、嫌わないで欲しいという観点から薦めていくわけです。

冷卸の熟成した旨みは、間違いなく旨いものだと思いますが、コッテリとした味は時に飲みにくい、野暮ったいなどという言葉になる可能性があると思うのです。
薄い弱いと言ったって、一夏越しているのは事実です。旨みが全く乗ってないわけじゃない。じゃあゴリゴリに熟す、熟れきったバナナではなくて、万人がまぁ美味しいよねっていう程度の熟し具合を良しとしている面があるのではないでしょうか。

もちろん、その時々、時代に合わせた味を出していくことが悪いことじゃありませんから、この想像が仮に当たってたとしても、何か問題かと言えばそんなことはないわけです。ただ、それならもう一回、もっと熟成した味をもう少し秋になってから出してくれてもいいんじゃないかなぁとか思ったりするわけなのです。


第三に、気象条件がおかしいこと。

なんか毎年聞くんですよね、夏が暑すぎてお米に高温障害が出そうとか出てるとか。22BYはそれがもっとも顕著に出た年で、本当に多くの蔵のお酒が例年よりも軽いコクの少ない味になってました。

24BYのお米の出来はそこまでひどくなかったと聞いていますが、それでももっと以前よりいいお米だったのかと言うとどうなんでしょうか。

とにかく、ここ数年の夏の暑さは、これまでのお酒造りの想像の範疇を超えてるんじゃないかと心配します。高温障害による米の品質低下問題は平成18年の時点で農水省で対策を検討するくらい問題化してるわけです。

高温障害による米の品質低下は、未発達のお米が多くなるというのが主な影響のようです。お米の等級は未発達のお米を含む不良米の比率によって定義されますので、等級が高いお米の比率が低い年ほど出来が悪かったということになります。事実、平成22年の水稲うるち玄米の1等比率は、例年の80%前後と比べても、62.0%と傑出して低い数値なのです(参考:米穀の農産物検査結果(農林水産省))。

といっても、等級検査で判断される要素は細かい栄養素だったり成分というところまでではありません。酒造りにおいては具体的にどういう影響があるのでしょうか。新政酒造の佐藤さんが、昨年の9月にブログで解説してくれています。
高温障害というのは、稲がこれから実ろうとする時期に、気温が高すぎて、米の品質が下がってしまうことをいいます。高温で米がうまく育たず、割れてしまったり、夜の温度が下がらないため、米の中に栄養が貯まらず、でんぷん質に乏しいスカスカの米(乳白米)になってしまうことです。  
 つまり、でんぷんで出来ている心白がスカスカということなんですね。心白あっての酒米ですから、ここがスカスカってそりゃいいお酒が出来るわけがない、ということなのです。

そう聞くと、今までと同じ造りをしていても、仮に等級が同じだとしても、心白の力が弱いお米が多いのではないかと勘ぐってしまうわけです。

余談ですが、じゃあ冷夏のお米ならいいのかって言えば当然そんなことはなく、今度は溶けすぎるんだそうですね。


そんなわけで、何でだろうなぁって思ったことをつらつらと書いてきましたが、実際のところはどんなもんなんでしょうか。


とは言え、今年も美味しい冷卸を飲むことが出来たのもまた事実でございます。夏酒に倣って一本選ぶとすると…

生道井かなぁ。美味しかったという記憶だと澤の花と並ぶんですが、上でこれだけコッテリが足りないって文句を言ってますから、キレイな澤の花ではなくコッテリの生道井を選ぶことにします。まぁどうでもいいですが。

今年の新酒を色々と飲み始めてますが、こういう記事を書いてると、早く来年の冷卸が飲みたくなって困りモノでございます。


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